漫画あれこーれ

今年に入って読んだ漫画作品の中で特に印象深かったものから。


■Big Hearts ジョーのいない時代に生まれて(林明輝講談社
Big hearts 1 (モーニングKC)

  • 漫然とボクシングジムを経営する秋田の前に現れたサラリーマン、保谷栄一。仕事に躓き、鬱屈した思いを抱えてジムに通い続ける保谷に、秋田はボクサーとしての才能を見出し、プロテスト受験を持ちかける。
  • ボクシングと人間の情緒を丁寧に描いた良作。リアルな内容と説得力のある人物の動きが、ボクシングに対する作者の情熱を存分にアピールしている。
  • 派手な要素は一切なし。スッキリした絵柄と相俟って印象は地味なんだけど内容は熱い。少年漫画の持つオールレンジな熱さとは違った、いい年こいた大人たちの宿す、静かに滾る熱意が篭っている。
  • 本編の名台詞で、第一巻の表紙にも取り上げられている「漫画じゃねえんだからよ、必殺パンチなんて見たかねえんだ!!」それを漫画でいわせちゃう作者の意気込みが気持ちいい。
  • 作者の林氏は長年サラリーマンをやっていて、四十路を過ぎてから漫画家に転向したという人らしく、これがデビュー作。人間の描き方がポイントを押さえていて無駄がないのは社会人経験の長さからだろうか。
  • そのまま実写ドラマにもできそうな作品なんだけど、ボクシングに関する部分のクオリティが高くないとダメだろうなあ。


プラネテス幸村誠講談社
プラネテス(1) (モーニング KC)

  • 21世紀後半、月面都市が構築され、宇宙進出がさらなる飛躍を遂げようとしている時代。地球圏では宇宙開発に伴い発生するデブリ宇宙ゴミ)の問題が深刻化していた。己の宇宙船を持つことを夢見てデブリ回収業者で働く青年ハチマキこと星野八郎太の挑戦と成長、および彼を取り巻く人間たちを描いた物語。
  • レンズマン」のようなスペオペ以外に苦手意識をもっていた自分が「エスエフって実は美味しいんじゃね?」と思い直す切っ掛けになった作品。宇宙ゴミの回収という分かりやすい切り口のお蔭で、すんなり作品世界に馴染むことができた。
  • 全篇を通して主人公ハチマキの顔の変わり方がものすごい。内面の変化に伴う描き分けという部分も含んでるのかもしれないけど。善玉も悪玉も一人でこなす芸風の広さ。
  • 女性キャラの顔の変わり方も凄まじいものがある。アニメ版の公式サイトによるキャラクター紹介を見た後だと、原作前半の女性キャラ、特にノノとタナベが直視できません(大袈裟)現時点でアニメは未見。面白そうではあるので、そのうち見るんじゃないかな。
  • エゴイズムに邁進していたハチマキが、周囲の人間との関わりで変化していった己を総括する最終話は余韻嫋々。
  • そういえば幸村誠も前述の林氏同様、この作品がデビュー作なんだよなあ(しかも僕と同い年)


諸星大二郎自選短編集 汝、神になれ 鬼になれ (集英社文庫(コミック版))
「汝、神になれ鬼になれ 諸星大二郎自選短編集(諸星大二郎集英社)」についても書こうと思ったんですが、何をどう書けばいいか思いつかなかったので、感想はパスで。昔に読んだ作品も幾つか再録されていて嬉しかった(「生命の木」や「復讐クラブ」とか)。この人の漫画は、アイデアも含蓄も豊かで、半端な作家じゃ太刀打ちできないものがありますな。