一夢庵風流記(隆慶一郎/新潮社)

再読。戦国期から江戸期に生きた「かぶき者」前田慶次郎の自由闊達な生き様を描いた時代長編。
原哲夫が漫画化した「花の慶次」をリアルタイムに読んでいたのが中高生の頃。ストーリーの大部分は忘れてしまってるのですが、あの劇画タッチのキャラクターはまだ殆ど記憶の中に残っています。そのため、本文を読んでいると慶次郎も捨丸もその他の面々もみんな原哲夫タッチでイメージが湧いてきます。漫画のほうはもう十年以上読んでいないというのに恐るべき影響力。
時代小説だけに、ややむずかしめの語彙が目立ちますが、文章そのものはとても読みやすく書かれています。脚本家として鳴らしてきた実力のなせるわざでしょう。ストーリーそのものはシンプルなので、深く考えずに慶次郎の豪快な生き方や気骨溢れる脇役の言動を楽しんで読むとよいでしょう。個人的には殺し屋の金悟洞が気に入っています。博多弁を喋るところに愛嬌を感じます。
ところで物語が始まった時点での慶次郎は既に四十路を過ぎた男盛りでして、本編の中ではおよそ二十年ほどの時間が経過していきます。つまり慶次郎は壮年から老年の境へと入っていくのですが、年齢を感じさせるような描写が殆どありません(登場人物の一人が慶次郎の年齢に言及する場面が僅かにあるくらい)この作品の中で慶次郎は何処までも若々しく活気に溢れた、それでいて人の心の機微をよく弁えた生き上手として描かれています。「花の慶次」で描かれている慶次郎はさらに若々しい青年の姿でして、ナンボなんでもデフォルメのしすぎじゃないかと当時は思ったのですが、原作に忠実たれという見方だと実に忠実だったのでしょう。でも慶次郎と同年の奥村助右衛門まで若く描かれてるのはどうなんだろうなあ。野暮な考えですかね。


一夢庵風流記 (新潮文庫)

一夢庵風流記 (新潮文庫)