ウランバーナの森(奥田英朗/講談社)

時代は昭和五十年代前半、かつては世界的なポップスターとして名声を博しながらも、そんな生活から逃れるように隠遁した主人公が、舞台となる避暑地の軽井沢で、心の奥底に押し隠していた辛い過去の思い出の数々と対峙する不思議なお話です。序盤はホラー物と思わせておいて、中盤からややファンタジーな内容になり、終盤はちょっとトンデモな展開を見せます。文章は丁寧かつユーモラスで、ホラーっぽい雰囲気の強い序盤からも、笑える箇所があちこちに出てきます。元々が笑いやすい性分というのもありますが、活字を読みながら「へへへ」「ははは」を連発する自分というのは傍から見たら不気味だろうなあと思ったり。
この「ウランバーナの森」、主人公および幾人かの登場人物には実在のモデルがあります。それについて作品では名言をしてないのですが、僕は最初の1、2節を読んだところで、それと気づきました。多分、大方の人は同じところで分かるでしょう。(わからない場合はあとがきと解説を読めばよいです)その人物について疎い僕には、筆者の思い入れの強さを漠然と推し量ることしかできませんが、そういう知識が何もなくても、面白い作品であったことは確かです。心の傷となっている出来事と向かい合い、これを乗り越えて行くところに癒しを感じられれば、充分ではないかなと。


追記。amazonのレビューや個人サイトの書評を見るとけっこう辛口というか、この作品が筆者の代表作とは毛色が違うらしく、困惑してる人が多かったのが、なんとなくおかしかった。一方で筆者の作風を古くから知ってる人は手放しで褒めていたり。これも面白かった。

ウランバーナの森 (講談社文庫)

ウランバーナの森 (講談社文庫)