avalon 灰色の貴婦人(押井守/メディアファクトリー)

幸田一族をまったく顧みることなく、ライトノベルを読みました。
読んだのはこれ。


Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)

Avalon 灰色の貴婦人 (MF文庫J)

  • 停滞と荒廃の影が色濃い現代もしくは近未来。人々の多くは「アヴァロン」と呼ばれる、仮想空間で行う大規模オンラインのウォー・シミュレーションにのめり込んでいた。「アヴァロン」への参加は有料だが、その内部で得た戦果は現金化され、参加者に還元される。それを糧に日々を生きる者も多く、主人公である戦士「308(サンマルハチ)」もまた、そんな一人だった――。
  • 数年前に公開された映画「アヴァロン」(僕は未見)の監督である押井氏による小説版。映画版の後日談という位置づけらしい。
  • 押井氏の作品を幾つか知っていて、尚且つ、Wizardryやミリタリー分野といったところに馴染んでないと、この小説を読むのは苦痛を伴うことになるかも知れない。僕は同氏の映画作品は「攻殻機動隊」くらいしか知らないけれど、パトレイバーの小説版は読んでいたし、コンプティークに連載していたエッセイをリアルタイムに追いかけてもいた(それらがまとまって単行本化されたときも勿論買った)ので、押井氏の文章は読み慣れている方だと思う。それでも読み始めた日の夜に集中力が途切れて寝てしまったので(早起きしてそのまま読みきったけど)、癖の強さは相当なものなのだろう。
  • 癖の強いと思う点・一つ目。作中では軍事兵器について、けっこうな分量を割いて描写しているので、氏の文章に慣れているかどうかよりも、むしろミリタリーへの造詣の方が、本書を読む上での適性になるのかもしれない。僕はミリタリーに関してはまったくといっていいほど疎いので、最初は興味深く読んでいたものの、中盤からはこれがかったるくなってきて、けっこう斜め読みになっていたように思う。
  • 癖の強いと思う点・二つ目。本作の骨子である「アヴァロン」というゲームのシステムについても、これまた繰り返し解説がされているのだけれど、このシステムは明らかにコンピュータRPGの最古参である「Wizardry」をベースにしている。アヴァロンの参加者は、仮想空間における自分にクラス(分類)を設定し、仮想空間上での自身の行動能力をパラメーター化していて、Wizを知らない人がこれらを理解するのは割とキツいかも。「クラスチェンジ」「レベル13」という言葉の重みなんて、Wizマニアでもないと華麗にスルーということになる。
  • 癖の強いと思う点・三つ目。押井氏は小説でもエッセイでもよく持論の哲学を開陳する。これが読んでて、けっこう難しい。読む手が止まるというほどではないにしても、「もう少し分かり易く」と思わずにはいられない。専門的な語彙が頻出するのが正確性を期してのことなのだろうと好意的に解釈。
  • と、読み手の意気を削ぐようなことばかり先に挙げたけれども、取っ掛かりの難しさは間違いない。タイトルやあらすじに惹かれて買ったのになんじゃこりゃ!ということにもなりかねないので。前述の内容を踏まえた上で覚悟を決めれば、押井作品を知らない人でも楽しさが見出せる……かも。ちょっと自信なし。
  • 僕はそこそこ楽しんだ方だろう。緻密でドライな文章が、人類の黄昏を思わせる世界や、タフなキャラクターたちの描写にマッチするので、そこにカッコよさを感じつつ読んだ。色々な謎が明らかにされないまま終わるため、結末は賛否両論あるやも。無理に解決をつけなくてもいいけれど、もう一節分くらい書いて、先の展開を具体的に予想する材料を与えたほうがよかったのでは、というのが僕の気持ち。
  • サントラ注文しました(まだアヴァロンの公式サイトがあった頃、予告映像(youtubech.comyoutubech.com)を見て、音楽のカッコよさにしびれていたので。あーばぁーろぉーん)