たまに芸術気分

夕方、地元の美術館で、ある画家の展覧会を見てきました。画壇にデビューした頃から五十路になるまで静物画や風景画に打ち込み、そこから抽象画ヘ転じ、晩年に世界規模の絵画展で評価されたという人です。
画家の手記や解説文によると、静物や風景を構成する事物のエッセンスを抜き出したいというところが抽象画への出発点であったということで、それを踏まえた上で後期の作品を見ると、漠然とではありますが画家の意図するものが読み取れたように思えました。
僕はもともと抽象画というものが大の苦手で、学生時代に粋がって西洋の画集を読み漁っていた(というよりも画集の解説文を執筆した美術評論家の真似事をしようと躍起になっていた)頃も、抽象画家のものだけは避けていたのですが、それから十数年経ってようやく、抽象画というジャンルの雰囲気を味わうことができたように思います。
印象的だったのは、遠目には黒く塗り潰されて所々に灰色や青色や赤色が点々と配されているだけの絵が、間近で見ると、塗り重ねては削り取る作業を繰り返した結果の独特の起伏をなしているのに気付いたことでした。その起伏には間違いなく画家の意図が込められていたのでしょう。絵画はけっして平面的なものではないのだなと思った次第です。